1983年に慢性胃炎患者の胃粘膜より分離されたらせん状の鞭毛のある長さ2.5、幅0.5マイクロメートルのグラム陰性桿菌で、胃粘膜表層に生息する。胃内の尿素を分解してアンモニアを産生するとともに、種々の細胞毒素を分泌し胃粘膜の細胞障害や炎症細胞の浸潤を起こし、急性胃炎や慢性胃炎、消化性潰瘍の病因になると考えられている。特に消化性潰瘍に関しては胃潰瘍患者の45~100%、十二指腸潰瘍患者の68~100%からヘリコバクター・ピロリの感染が証明され、本菌の感染を治療すると潰瘍の再発が予防できるとされている。また、疫学的調査により本菌の感染が胃がん発症のリスク因子であることが示されているほか、ある種の胃のリンパ腫の発症進展にも関連していると推定されているが、本菌の感染から悪性腫瘍の発生に至る仕組みについてはまだ解明されていない。一般に本菌による感染症の治療については、消化性潰瘍患者を対象に抗生物質1~2剤、メトロニダゾール、ビスマス製剤、プロトンポンプ阻害剤などの中から2~3剤を併用するのが一般的である。