胎児期から幼少期にかけての環境が、成人期の慢性疾患のリスクを上昇させるという概念である。ドハド、ドーハッドなどと呼ばれる。1980年代にイギリスの疫学研究者デイビッド・バーカー(David Barker)らは、出生時に体重が軽かった人ほど循環器疾患死亡率が高いことを見いだした。その後、胎児期から幼少期にかけての低栄養や発育遅延が、虚血性心疾患、脳卒中、高血圧、2型糖尿病、精神疾患などの非感染性疾患のリスク要因となることが報告されている。胎児期に低栄養環境にあると関連遺伝子の配列は変わらないが、発現の修飾が起こって次世代まで記憶される。また栄養が胎児の中枢神経系だけに集中し、腎臓などの臓器の細胞数が絶対的に少なくなり、出生後の飽食環境とミスマッチが起こって健康の維持ができなくなる。つまり胎児期~2歳頃の1000日間は最も重要な時期で、この時期に適切な改善処置があれば、成人期以降に発症する非感染性疾患のリスクを低減することが期待できる。欧米で盛んに研究されている一方、日本は低出生体重児の割合が高いにもかかわらず立ち遅れている。