耳鳴りとは、聴覚を物理的に刺激する音源がない環境で、「ピーン」「キーン」といった音を感じる現象である。難聴やめまいを伴う場合には、感覚器の疾患や脳腫瘍、脳血管傷害などが見つかることがあり、西洋医学的な治療が優先される。しかし中には、心因的要素や加齢に起因する、と考えられるものも少なくない。漢方医学では、耳鳴りは耳だけの問題でなく、全身の状態と関連があると考える。そのため他にどのような症状があるか、耳鳴りが悪化・軽快する時の状況などを知ることが、治療方針を決めるうえで役立つ。ストレスによって悪化する場合は、抗ストレス作用がある柴胡(さいこ)が入った処方を考慮する。静寂時に耳鳴りを感じやすい神経過敏な状態には、竜骨(りゅうこつ)、牡蛎(ぼれい)を含む処方を用いる。例えば、体力がある人には柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、比較的体力がなく、冷え症の人には柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)などが使用される。加齢に起因する耳鳴りでは、聴力の低下を伴うことが多いので、八味地黄丸(はちみじおうがん)などが用いられる。さらに、疲れると耳鳴りがひどくなる人には、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などを用いて、疲れにくい全身状態を維持することが重要となる。