直線仮説ともいう。微量被曝(→「被曝」)の危険の大きさは実測値としては知ることができない。そこで、単位被曝当たりの危険度が高線量被曝の場合と同じであるとする考え方をLNT仮説という。微量被曝の場合には放射線ホルミシス(radiation hormesis)、あるいはホルミシスと呼ぶ有益な効果があるという説がある一方で、微量被曝の方が単位被曝当たりの影響が大きいという知見も得られてきた。細胞一つひとつを弁別しながら放射線を照射したとき、照射を受けた細胞の隣接細胞もまた被曝の影響を受けることが分かり、バイスタンダー効果(bystander effects)と呼ばれる。また、ゲノム不安定性(genome instability)と呼ばれる継世代影響も明らかにされてきて、微量放射線の健康影響がLNT仮説以上に大きなものである可能性もある。2005年6月のアメリカ科学アカデミーの報告(BEIR-VII ; Biological Effects of Ionizing Radiation-VII)では、LNT仮説が改めて支持された。また、06年には世界保健機関(WHO)が通常環境での低濃度のラドン被曝の危険を認め、その規制に乗り出した。08年に出された国際放射線防護委員会の2007年勧告でも、現時点ではLNT仮説がもっとも科学的に合理性があるとされた。