内閣官房・内閣衛星情報センターが運用する、事実上の偵察衛星。2017年3月現在、太陽光で地表を撮影する光学衛星3機と、合成開口レーダーを搭載したレーダー衛星3機の合計6機が運用されている。光学衛星は、第一世代の2機が公称で地表の1メートルサイズのものを観測可能。第二世代は60センチ、最新の第三世代は41センチ以下と公表されている。
レーダー衛星は、第一世代が数メートルの大きさのものまで観測可能。第二世代が1メートル、第三世代が50センチ程度の物体を識別可能。光学衛星は地表が雲で覆われていると観測ができないが、レーダー衛星は雲が出ていても撮影できる。設計上の衛星寿命は打ち上げ後5年。使用する衛星軌道は公的には秘密にされている。しかし実際には、地上から衛星を観測することにより、高度約490キロで地球を南北に回る軌道(極軌道)に配備されたことがわかっている。年間でコンスタントに600億~700億円ほどの予算が費やされている。
当初は光学衛星、レーダー衛星、各2機の4機体制の構築を目指していた。しかし、レーダー衛星は、1~2号機が設計寿命前に電源故障を起こして運用不可能になった。11年には光学衛星「光学4号機」とレーダー衛星「レーダー3号機」の2機を、12年度には、「レーダー4号機」と40センチの物体を観測できる第三世代衛星の試験機「光学5号実証衛星」を打ち上げた。レーダー4号機の打ち上げにより、計画開始から15年目にしてやっと、当初想定していた「光学衛星とレーダー衛星各2機」の体制が完成した。
取得データは、安全保障用途だけではなく、災害対策にも使用されることになっている。01年の新燃岳噴火と11年の東日本大震災でも情報収集衛星の取得データを使用したと公表されたが、その実態は国家機密の名目の下、「必要に応じて分析結果を関係官庁に配布した」としか明らかにしなかった。13年11月、台風30号がフィリピンを襲った際、内閣衛星情報センターは、IGS取得画像に基づく被害状況地図を公表した。IGS観測結果に基づくデータの公開はこれが初めてで、実際にIGS取得データが防災目的に使用されていることが公になった。
16年度からは、4機体制では観測頻度が足りないという理由から、さらに光学・レーダー各2機を増やし、光学4機、レーダー4機に加えて、それぞれの衛星を日本の基地局に中継するデータ中継衛星2機の、合計10機体制への強化が始まった。既存衛星は「基幹衛星」として高分解能の観測を行う。一方、新たに増やす4機は船団や車両など高速に移動する対象を高頻度に観測する「時間軸多様化衛星」と位置付けられている。最初の時間軸多様化衛星は23年度の打ち上げを予定している。