電子は波の性質(電子波)も持っており、その電子波の干渉性を利用した電子顕微鏡をいう。一般的なレーザー光を用いるホログラフィーは、光の位相(波の山と谷の位置関係)情報をホログラムと呼ばれる写真乾板などに記録し、それに再び光を照射して立体像を作り出すものである。ホログラムを作るときに位相がよくそろって干渉性のよいレーザー光が用いられるが、その代わりに電子線を使ったものが電子線ホログラフィーである。物体を透過または散乱した波(物体波)と、光源から直接くる波(参照波)を偏向・干渉させることにより電子線ホログラムを得る。そのホログラムから再生される画像を処理することにより、色々な情報を解析することができる。
これまでの電子顕微鏡では電子線の強さだけを観察していたのに対して、電子線ホログラフィーでは高分解能の位相差顕微鏡や干渉顕微鏡などを作ることができる。ホログラフィー電子顕微鏡は故・外村彰氏によって開発され、1970年代後半の干渉性のよい電界放出電子線の開発によって実用レベルに近づくまでになった。また、この方法を用いた超伝導体中の磁束量子の動的観察や高密度磁気記録の評価が可能となり、さらにはベクトルポテンシャルと呼ばれる量が実在していることを示すAB効果(アハラノフ・ボーム効果)の実証実験にも用いられた。