揚水発電は、大規模電力貯蔵として実用化している唯一の技術である(→「電力貯蔵技術」)。揚水発電所は、「上池」と「下池」の二つの貯水池を設け、夜間や休日のオフピーク時に大型火力や原子力の電気を利用して下池から上池に水をくみ上げておき、昼間の電力需要がピークのときにこの水を使って発電するシステムである。上池と下池との落差を大きくするほど発電出力も大きくなるため高落差・大容量化へ向けて技術開発が進んでいる。
揚水発電所の規模は1960年代までは、その最大落差が200メートルに満たなかったが、その後の技術開発により落差は着実に大きくなってきている。現在では高揚程778メートルの葛野川発電所(単機容量40万kW×4基、合計出力160万kWの計画で2基稼働中)や653メートルの神流川発電所(単機容量47万kW×6基、合計出力282万kWの計画で1基稼働中)が建設されている。
揚水発電は、エネルギーの貯蔵密度からみれば蓄電池の約100分の1と小さい。そのため、昼間に発電する時間を長くするためには大型の上池ダムが必要になる。しかし、ダム建設のほとんどが土木工事であり、ダムの寿命も長いため、他の電力貯蔵技術に比べて経済性は比較的優れている。課題は、立地点が電力需要地から遠隔になり、経済的な適地が次第に少なくなっていることである。