京都大学の山中伸弥教授が2007年に開発した従来法では、iPS細胞の作製に必要な遺伝子を細胞に運ぶベクター(運搬体)にウイルスを用いているが、このベクターがゲノムに挿入されることで、遺伝情報を傷つけiPS細胞ががん化する危険性があった。そこで、ウイルスベクターを使わないiPS細胞の作製法が近年2つ発表された。
(1)アメリカ・ウィスコンシン大学のジェームス・トムソン教授らは、09年にゲノムに挿入されないエピソーマル・プラスミド(episomal plasmid)をベクターとして使用する方法でiPS細胞を作製した。
(2)大阪大学大学院医学系研究科の森正樹教授らは、マウスの幹細胞に特異的な約60個のマイクロRNA(micro RNA ; miRNA)を発見した。その中の特定の3種を組み合わせて皮膚などの細胞と一緒に培養するだけで、一部の細胞がiPS細胞と同じ性質を持った幹細胞に変わることを突き止めた。さらに、ヒトの細胞でも同じ組み合わせでiPS細胞が作れることを確認して「mi-iPS細胞(ミップス細胞)」と名付け、11年に発表した。