体外にある放射性物質からの外部被曝と、吸気、飲み水、食品などによって体内に摂取された放射性物質からの内部被曝により、発がん、遺伝的障害など、人間の健康が損なわれるリスクのこと。遺伝的障害については確かな証拠がない。被曝量は、摂取率や体内に半分が残留する期間(生物学的半減期)などが核種ごとに考慮された実効線量により評価され、シーベルト(Sv)で表される。年100ミリシーベルト(mSv)の被曝で1000人当たり年0.57人が新たに発がん死するとみられる。それ以下の被曝線量については定説はなく、被曝線量と発がん死率が比例関係にあると仮定し、様々な政策がとられている。
日本人の3人に1人は発がん死し、発症原因は特定できないから、2011年3月に起きた福島第一原子力発電所事故により低線量被曝を受けた地域住民の発がん死リスクの上昇を実証するのは困難である。チェルノブイリ原発事故では、汚染された牧草を食べた牛の牛乳を飲み続けたため、多くの子供で甲状腺がんが発症したと言われる。
福島第一原発事故では、ヨウ素131とセシウム134、137が大量に放出され、年20ミリシーベルトを超える外部被曝を受ける地域が20キロ圏を超えて北西方向に広がり、大勢の避難者、農耕放棄などの影響が出た。飲用水、吸気については、11年4月以後は外部被曝に比べてずっと低い濃度に下がっている。食品は、近隣では野菜や水産物が生産されていないが、それでも基準値を超えたものがときどき発見される。発がん死リスクが被曝線量に比例するとすれば、基準値を超えたものを1回食べたら危険ということではなく、あくまで総量を低く抑えることが肝要である。局所的な高濃度地域の除染も行われるが、放射能をなくすわけではなく、集めたり移動したりするだけである。国際放射線防護委員会(ICRP)によれば、放射線の管理はリスクゼロを目指すのではなく、経済的技術的に合理的な範囲で低いリスクにとどめることを目指している。また、平常時と緊急時を分けて考え、緊急時には平常時と同じ安全が確保されない状況を想定している。