2011年3月11日の東日本大震災と津波による福島第一原子力発電所の事故では、電源喪失により原子炉の冷却が止まり、圧力容器内の圧力が高まり水位が低下した。放置すれば核燃料棒が冷却水から露出し、圧力容器が損傷する可能性があったため、水蒸気を排気(ベント)した。このベント、および水素爆発等による原子炉建屋等の損傷による放射性物質の封じ込め機能の喪失により、大量の放射性物質が大気に放出されたと考えられる。放出された放射性物質は拡散しながら気流によって運ばれる。このため汚染は放出時の風向に依存して広がり、同心円状にはならない。微粒子として大気中を移動する放射性物質は重力や降雨によって地上に降下し、土壌を汚染する(→「放射能による土壌汚染」)。
事故により大気に放出された放射性物質の総量は、原子力安全・保安院によれば、ヨウ素131が約16万テラベクレル(TBq)、セシウム137が約1.5万テラベクレル、合わせたヨウ素換算値で約77万テラベクレルである(11年6月6日発表)。一方、原子力安全委員会の異なる方法による推定では、ヨウ素131が約13万テラベクレル、セシウム137が約1.1万テラベクレル、合わせたヨウ素換算値で約57万テラベクレルである(同8月24日発表)。
事故後の原発周辺の空間線量率と積算線量の分布を文部科学省が公表し、それによれば、放射性物質は主として原発から北西に向かって大気中を移動したことがわかる。