水俣病は有機水銀(おもにメチル水銀)で汚染された魚介類を摂取したことで発症する中毒症状であるが、母親が妊娠中に摂取した有機水銀が胎盤を経由して胎児に移行、結果、母胎内で有機水銀に侵された場合を胎児性水俣病と呼ぶ。妊娠中や出産時には異常は観察されないが、成長に従って精神や運動の発達が遅れ、気づくことが多い。重症の場合は、幼くして死亡したり寝たきりの重度心身障害児となったりする。おもな症状として、首がすわらない、歩行困難、けいれん、よだれを流すなどがある。臨床的には脳性小児まひと診断される。1955~59年にかけての調査で、水俣病の発生地区では、小児まひの発生率が日本全体の0.2%前後に対し、9%と異常に高く、発症時期や家族に水俣病患者のいることから、水俣病との関係がのちに認められた。胎盤は毒物の胎児への移行の障壁になると考えられてきたが、メチル水銀は母親に水俣病症状がない場合でも胎児に重篤な影響を与えたことで、胎盤機能の欠陥が示された最初の例である。デンマークのフェロー諸島などでの疫学調査結果からは、胎児性水俣病の発症より、ごく少量のメチル水銀を摂取した母親でも、子どもの運動や知能の発達がわずかに遅れることが指摘され、妊娠女性は水銀濃度の高い魚介類の摂取量を抑えるべきとする注意喚起が各国でなされている。日本でも厚生労働省がホームページで注意喚起を行っている。