最近の研究では、人工的に合成したDNAが、さまざまな分野で用いられるようになってきた。人工的なDNAは、合成に限界があるため、自然界のDNA、たとえばλDNA(lambda DNA 大腸菌に感染するバクテリオファージ「λcI857 Sam7」由来の1万塩基程度のDNA)に比べ、短いのが特徴・欠点であるものの、好きな配列で、好きな長さのDNAを作成できるという利点がある。DNAは通常二本鎖であるが、人工的に作られた一本鎖DNAに特定の金属イオン、たとえば銅イオンと水銀イオンを加え、一本鎖DNA上に並べることにより、二本鎖らせん構造の中心にこれら金属イオンが整列する構造を形成することが可能である。この手法を用いると、金属イオンが並んだ分子ワイヤ、あるいは分子合金が作成できることが期待される。また、DNAの特定の配列に選択的に吸着可能な金属ナノ粒子を人工DNAに反応させることにより、金属ナノ粒子がつながった金属ワイヤが作成できる。このワイヤの特徴は、金属の並びをDNA配列により制御できるため、設計が比較的容易である点である。
一方、人工DNAの特徴である配列制御により、グアニンを多く含む場合に、二重鎖より四重鎖構造を形成しやすい特徴があることを利用して、その四重鎖が連結して形成される剛直性の高いナノ線維に金属イオンに応答するビピリジンユニットを挿入し、金属イオンの有無によって構造変化を起こすスイッチ構造(分子スイッチ)も報告されている。さらにグアニンを介してDNAに電気信号が流れる様子も観測されており、DNAによる配線回路の作成など今後、さまざまな形での人工DNAの応用が広がっていくものと考えられる。