金属の両端に温度差を与えると電圧が生じる現象はゼーベック効果として知られており、精密な温度測定などに用いられてきた。これに対して、スピン・ゼーベック効果は磁石の両端に温度差を与えることで、磁気の流れであるスピン流(spin current)が生じる現象である。磁性体の薄膜の両端に薄い白金金属を接続し、温度差により形成されたスピン流を電圧に変えて高感度に読み出すことで、スピン・ゼーベック効果を検証する実験が成功した。スピン流は磁気メモリーや磁気ディスク、さらにはスピンを用いた量子コンピューターのスピンの駆動に使用できる可能性がある。温度差をこれまでとは全く違う新しい形で直接磁性に応用できる画期的な技術で、新しいエネルギー応用としての魅力もある。温度差をスピンを介して電圧に変換するため、通常の熱起電力デバイスより効率が悪いように思われるが、最近インジウム・アンチモン(InSb)と白金(Pt)を組み合わせた構造でmV/K(ミリボルト・パー・ケルビン)に及ぶ巨大スピン・ゼーベック効果(giant spin Seebeck effect)が観測された。