スピンは電子が持つ自由度の一つで、電子の自転のようなもの。材料が磁性を持つ源でもある。そのスピンを主役にした分野はスピントロニクス(spintronics)と呼ばれている。電子はフェルミ粒子として同じ状態に同じスピンが入ることができず、ナノ構造、特に狭い空間に閉じ込められたことで電子が取り得る状態の数が数個しかない量子ドットでは、スピンやスピン間の相互作用が重要な役割を果たす。原子核もスピンを有し、核スピンと呼ばれている。最近は、これらのスピンをナノ構造で制御して量子ビットを作ろうとする研究が活発化している。たとえば、ガリウムひ素やシリコンの量子ドットを複数並べて、各ドットに捕獲された電子スピン間の相関を利用して量子ビットを作る方法があり、3~5量子ビットが実現されつつある。また、ダイヤモンドNVセンターではセンターに近接する13C(炭素の同位体)を利用して、電子スピンと核スピンの量子相関を利用した量子ビットも実現されている。ダイヤモンドNVセンターは室温で量子操作が実現できる魅力がある。これらの研究の進展を受けて、固体量子ビットをさらに集積して汎用の固体量子コンピューターにつなげようとする研究が、欧米の有力企業も参加して進んでいる。