人工ウイルスは、(1)利用目的に応じてウイルスそのものを人工的に作製・改変するものと、(2)遺伝子を目的の場所まで運ぶベクターとしての機能を持つ分子を合成する、非ウイルスの二つに大別される。ポリオウイルスやバクテリオファージなどはすでに人工的に合成できたとの報告がある。病気を引き起こすウイルスは、また同時に、治療に使用することが可能である。特に、遺伝病など、遺伝子の中で問題を起こしている部分だけを治療する必要がある際に、ウイルスによって治療のための遺伝子を導入することは重要な技術になっている。また、識別用の緑色蛍光たんぱく質(GFP)を発現させるために、GFPの遺伝子を組み込むことも頻繁に行われている。しかしながら、ウイルスの改変にともなうリスクや感染などの危険性を避けることが難しいため、ウイルスを用いない人工ウイルスの開発が求められていた。糖のクラスターや樹状高分子であるデンドリマーを利用したものについて研究が進んでいる。特定の場所に薬剤を届けるドラッグデリバリーシステム(DDS)用途として、ナノカプセル化したウイルスたんぱく質も報告されている。なお、いずれにしても、増殖性はない。