スピン情報はスピンがその位置から動かなくても、スピンの向きの変化として伝えることができるため、電子が動かない絶縁体中でも電子が有するスピンの情報を伝えることができる。この特徴を生かして、電気信号をスピン波に変換して磁性絶縁体中を伝搬させることができることが実証された。磁性ガーネット結晶の上面に1mmの間隔を空けて白金電極を付けたデバイスを用いた。白金は強いスピンホール効果を示すため、片方の白金電極に電流を流すと、電流が磁気の流れであるスピン流(spin current)に変換される。このスピンの流れにより、この白金電極に接した磁性ガーネットにスピン波が励起される。磁性ガーネット中でのスピン波の伝達距離は1cm以上にわたるため、スピン波はあまり減衰せずに空間的に離れたもう一方の白金電極に伝わる。白金中で生じる逆スピンホール効果(inverse spin Hall effect スピン流が電流に変換される現象)を利用することで、伝達したスピン情報を再び電気信号として取り出すことができた。磁性絶縁体でもスピン操作が可能になることで、これまで金属、半導体に限られていたスピントロニクス分野が絶縁体にも広がることが期待される。スピン波はジュール熱を発生することなく、しかも室温で伝搬させることができるため、省エネルギーの信号伝搬手法としても大変魅力的である。スピン波の量子力学的な重ね合わせを制御することで、スピン波デバイスを実現する試みも進められている。また、波の性質を利用すると、干渉効果を用いた演算デバイスも実現可能なことから、多くの入力情報を一度に同時処理するようなスピン波演算素子(spin-wave logic device)も研究されている。