脳や脊髄等の中枢神経は、一度損傷を受けると再生することが困難な組織である。したがって、その治療には、細胞の移植などの再生医療が有効であると考えられている。近年、倫理面や拒絶反応の多い胚性幹細胞に代わる有効な細胞としてiPS細胞が注目を浴びている。しかしながら、移植後の細胞の腫瘍化のリスクから、腫瘍化の低減およびiPS細胞を用いない幹細胞誘導法の開発が望まれている。iPS細胞については、移植前のスクリーニング(選別)やRNAの導入により、腫瘍化しにくい細胞作製が可能になりつつある。
一方、線維芽細胞に遺伝子を導入することで、直接神経細胞や心筋細胞を作り出す直接誘導法(direct induction)が開発され、iPS細胞を介さないことで腫瘍化を抑えるとともに作製にかかる時間の短縮が期待されている。さらに、皮膚の線維芽細胞や骨髄の骨髄間葉系細胞の中に含まれ、その表面にあるSSEA-3と呼ばれるマーカーを指標に分離可能なミューズ細胞(Muse細胞 multilineage-differentiating stress enduring cell)による遺伝子導入を必要としない幹細胞誘導などの研究も盛んに進められている。