誘導多能性幹細胞ともいう。再生医療で期待されている幹細胞は、今まで受精卵を用いた胚からのES細胞が中心であり、倫理面や拒絶反応といった問題のため、思うように研究が進まなかった。しかし、近年、神経幹細胞や肝幹細胞、造血幹細胞などの体性幹細胞も全能性を有することが確認され、再生医療による治療に期待が高まってきている。さらに、体細胞からES細胞に類似した細胞を作り出す手法も開発され、より現実味を帯びてきた。マウスの皮膚細胞(線維芽細胞)の四つの遺伝子(Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4)を操作してES細胞に極めて近いDNAパターンを有する万能細胞へと変化させることや、2007年末には、ヒトの皮膚細胞からiPS細胞を樹立させることにも成功した。患者自身の体細胞からiPS細胞を作り出すことにより、拒絶反応のない臓器移植の実現につながると期待される。
最近では、iPS細胞を作製するために必要な四つの遺伝子を三つに減らせること、あるいは二つの遺伝子と化学物質の組み合わせでも作成可能なことが報告されており、遺伝子を使わずにiPS細胞を作製する道がひらける可能性が示された。また、問題となっている細胞の腫瘍化についても、移植前のスクリーニング(選別)やRNAを利用したiPS細胞の作製により、腫瘍化しにくい細胞の作製が可能となってきている。神経幹細胞に分化させたのちに移植することにより、腫瘍化することなく、脊髄を損傷したマウスを治療することにも成功している。さらに、生殖細胞や色素細胞への分化も報告され、作製した精子から体外受精でマウスが誕生するなど、絶滅危惧種の動物への適用が検討されている。ヒトへの本格的な治療や応用もスタートし、がん幹細胞や尿細管作製、毛包再生の他、13年度には眼病(滲出型〈しんしゅつがた〉加齢黄斑変性症)患者に対する網膜治療の臨床応用が了承された(→「網膜再生」)。
最近では、iPS細胞を利用した立体構造の構築が模索され、横浜国立大学の福田淳二准教授らは肝組織の構築を、東京大学の木戸丈友特認助教らは肝細胞を効率的に作成する方法を開発しているほか、熊本大学の西中村隆一教授らは三次元腎臓組織の作成に成功している。また、横浜市立大学の谷口英樹教授らは、加齢黄斑変性治療の実用化を目指しているヘリオスと共同で、肝臓再生に向けた技術開発を行っている。さい帯からの間葉系細胞と血管内皮細胞、iPS細胞から誘導した肝細胞の前駆細胞を混ぜることで肝芽細胞を構成し、これを肝臓に移植することで臓器再生に取り組もうとするもので、ブタなどの大型動物を利用した実験を予定している。このようなiPS細胞の発展にともない、目的に応じたiPS細胞を迅速に提供するためiPS細胞ストックが計画されている。