スキルミオンは、もともと宇宙や素粒子分野の理論研究者であるT.スキルムが素粒子の状態を記述するために考えたものであるが、固体のスピン(自転のようなもので、磁性の源。それぞれ反対の回転方向をアップスピン、ダウンスピンと呼ぶ)の分野で昨今注目を集めている。整数量子ホール効果(integer quantum Hall effect ミクロな基本定数がその整数倍で階段状になって測定量に現れる現象)でスピンの向きが完全にそろった状態に、スピンの向きが異なる電子を追加するとき、スピンの向きをそろえようとする力とスピンを反転させようとする力のバランスにより、スピンが渦状に徐々に向きを変える状態が存在することが極低温での実験で確認された。この渦状のスピンの集団構造がスキルミオンであり、この渦状構造同士が相互作用することによりスキルミオン結晶が形成される。最近では、らせんスピン磁気構造をもつ金属を数十nm(ナノメートル nは10-9=10億分の1)程度の薄膜にすることで、広い温度範囲でスキルミオン結晶が存在することが確認され、コバルトやコバルト鉄ボロンの薄膜を他の金属で挟んだ構造においては、界面に室温で存在するスキルミオンも見出された。通常の強磁性状態から連続して変形できないため、平面や細線の内部では極めて安定であり、磁気メモリーデバイス(記憶素子)やスピントロニクスデバイスへの応用が期待されている。一方で、形状のへりや切り込み溝を利用してスキルミオンを生成・消滅する手法も将来のデバイスに向けて検討されている。