内部では通常の絶縁体と同様に伝導体と価電子帯の間に禁制帯(バンドギャップ)が存在すため電流が流れないが、その表面では禁制帯の中に特殊な状態が生じており、電流が流れるという金属的な振る舞いをする絶縁体。このような材料、あるいは構造が最近見つかり、物性分野で大きな注目を集めている。電子が面の上を自由に移動できる高移動度の二次元電子系が強磁場の中に置かれたときに生じる量子ホール効果(ミクロな基本定数が測定量に階段状で現れる現象)状態の端部においても似たような状況が起こるが、トポロジカル絶縁体の場合は磁場がなくてもこのような状況が生じる。こうした現象が生じるのは、電子の軌道運動と、そのスピン、すなわち磁性の源となる自転の相互作用が強い場合に現れるバンド反転(エネルギー状態の反転)に基づくことが多く、自転の方向に対応するスピンの向きが、電子の運動方向に対応して固定される特徴がある。
水銀・カドミウム・テルルの量子井戸構造(電子を二次元的にしか動けないように束縛する構造)のような二次元トポロジカル絶縁体では、その端の部分で、反対方向に進む二つの経路でスピン状態が逆向きになるため、後方への散乱が抑制され、散逸のない伝導が期待できる。実際にこの状況で、スピンホール効果(非磁性体に磁場を加えない状態で電流を流したときに、電流と垂直の方向にスピンの流れが発生する現象)が量子化される量子スピンホール効果(quantum spin Hall effect)が観測されている。最近では、二次元の特殊な伝導状態を表面にもつ三次元トポロジカル絶縁体が存在することも、テルル化水銀やビスマス・アンチモン合金などの半金属で実験的に確認されている。トポロジカル絶縁体の表面、あるいは端の状態は連続的な接続形態で決定され、細かい形状にはよらないため、不純物などによる局所的な乱れの影響を受けないので、雑音に強い量子コンピューターへの応用も期待されている。