単層の炭素のベンゼン環構造が二次元平面上に並んだものがグラフェンだが、この炭素を同じIV族のシリコン(Si)に置き換えたものがシリセンである。1990年代に日本人の研究者により理論的に提案されていたが、これらの構造が安定に存在できることが実験で確認された。具体的には結晶の向きがそろった銀基板上にシリコンを吹きつけたり、シリコンウエハー上に二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)薄膜を成長させたりすると、その上に自発的にシリセンが形成される。グラフェンと異なり、ベンゼン環状構造が完全に平坦にならずに、隣り合う原子同士が交互に波打つ「座屈した(バックルした buckled)」構造を取るため、この構造の制御によりバンドギャップ(band gap 電子が存在できないエネルギー領域)が導入できる可能性がある。表面の酸化防止などの課題はあるものの、エレクトロニクス新材料として大きな期待がもたれ、銀薄膜の上に形成されたシリセンシートを剥がしてシリコン酸化物基板に載せ、電極を付けることでトランジスタの動作をすることも報告された。シリセンはシリコンの極限の単層薄膜であり、二次元状態への電子の閉じ込め効果がある。このため、電子が価電子帯から伝導体に移動するのに複数段階を経る間接遷移が、直接移動する直接遷移になる可能性があり、発光素子への応用も期待されている。なお、シリセンが水素化された二次元薄膜がシリカン(silicane)である。