単層の炭素がベンゼン環構造を組み平面状に並んだもので、究極の二次元材料といえる。バンドギャップ(band gap 電子が存在できないエネルギー領域)の幅がゼロのユニークな半導体になることが理論的に指摘されてきた中で、これが安定に存在することが明らかになった。バンドギャップの幅がゼロであることを反映して、電界を加える向きによって電子を蓄積することも正孔(hole 電子の抜けた穴で、正の電荷を有する)を蓄積することもできる。蓄積された電子は室温でサブミクロンの距離を散乱されずに移動(バリスティック伝導 ballistic transport)する半導体の薄膜と同等かそれをしのぐ高い性能が得られた。低温では高品質半導体二次元系で観測されている量子ホール効果や分数量子ホール効果も観測された。通常の金属や半導体とは異なるユニークなバンド構造を有しており、グラフェントランジスタやグラフェンナノデバイスへの応用が期待される。トランジスタ応用に向けては、バンドギャップがなく電流をオフにできない問題があるが、これを克服する方法として二層グラフェンに電界を加えて、バンドギャップを開かせる方法なども検討されている。グラフェンは導電性があり、薄くて光を透過することから透明電極材料としても有望で、機械強度に優れ、曲げられることからフレキシブルデバイスへの期待も高い。現在、高品質のグラフェンを得るには、三次元グラファイト(graphite 結晶度の高い炭素)から層構造を粘着テープではがしていくことで、単層のグラフェンを得る手法が一般的である。しかし、この方法では大面積のグラフェンを得ることができないため、量産に向けて、炭化水素を熱分解する化学気相成長法(CVD ; chemical vapor deposition)などによるグラフェンの直接堆積、金属触媒の上に成長したグラフェンの基板への転写、SiC(炭化シリコン)の表面改質によるグラフェン形成などが試みられており、ある程度の品質で面積の大きなグラフェン膜が得られるようになってきた。なお、2010年のノーベル物理学賞は「二次元物質グラフェンに関する革新的実験」の業績でイギリス、マンチェスター大学のアンドレ・ガイム教授とコンスタンチン・ノボセロフ教授に与えられた。グラフェンを水素で修飾したグラファン(graphane)という構造も実現されている。水素結合により炭素原子の結合状態がsp2(平面三方型)からsp3(正四面体型)に変化するので、導電性のグラフェンとは異なり絶縁的な振る舞いを示す。