DNAを利用することで精密機械のような動きを示す分子マシンが報告されている。たとえば、東京大学で開発された分子リール(molecular reel)は、光ピンセットでDNAの一端を引っぱり、モーターたんぱく質(motor protein 筋肉やべん毛の運動を駆動するたんぱく質)であるF1-ATPaseを磁場で回転させることで、リールのようにDNAをその回転軸に巻きつけることに成功した。DNAの配列と曲げやすさに相関性があることから、遺伝子スイッチングのメカニズム解明につながると考えられている。また、DNAオリガミ法(DNAを用いて折り紙と同様に立体構造を作製する手法)などにより作製したナノメートル構造体を利用することで、DNAの進行を人為的に制御するDNA分子モーター(DNA molecular motor)が実現できる。このような分子の運動制御は、化合物でありながら自律的に行動する分子ロボット(molecular robot)の開発の基礎となる技術である。分子モーターの原理は、1列に並んだ1本鎖DNA(レール)に対してその相補鎖DNA(これをDNAモーターと呼ぶ)が結合する性質により2本鎖DNAとなることを利用している。結合した2本鎖は酵素による鎖の切断により、結合した1本鎖DNAが短くなることで、相補鎖DNAは、並んでとなりにあり安定に結合できる長い1本鎖DNAへ移動する。この反応を繰り返すことで、相補鎖DNAはレールに沿って順次移動することができる。