網膜とは、眼球の内側にあり、光の情報を信号化して脳へ伝達する組織のことで、この組織の病変は、失明をはじめ、重篤な視覚の異常をもたらす。たとえば、加齢黄斑変性は、網膜の中心にある黄斑部の層である網膜色素上皮(retinal pigment epithelium)に問題が生じて発症するもので、著しい視力低下や視野のゆがみをもたらすが、効果的な治療法はない。そのため、iPS細胞の利用による網膜再生が期待されてきた。そうした中、理化学研究所と先端医療センター病院(兵庫県神戸市)は厚生労働省の承認を得て、失明の恐れがある滲出型加齢黄斑変性(しんしゅつがたかれいおうはんへんせい exudative age-related macular degeneration)の患者を対象に、2013年8月から、iPS細胞を使った世界初の臨床研究となる網膜再生医療を開始した。治療には網膜色素上皮を交換する必要があり、患者の皮膚から作製したiPS細胞を網膜色素上皮細胞に分化させ、シート状にした後、交換移植する。この臨床研究では、移植された再生網膜が腫瘍化しないかなど、治療法の安全性を評価することも主な目的である。