昨今、生体試料や、特に脳を透明化する試薬や手法が登場している。こうした試薬や手法により、今までのように脳を薄くスライス切片化して、それらを再構築していく断層撮影を行うことなく、そのままの状態で内部構造を観察することができる点で注目されている。透明化するためには、観測対象物と周囲の物質の光の屈折率を均一にすることや光の散乱の原因となる脂質をなくすことが必要である。手法としては、尿素を加えると脂質が水となじみやすくなる性質を利用し、界面活性剤やグリセロールを原料として用いた、理化学研究所による透明化水溶性試薬Scale(「l」は斜体で表記)や、高濃度のフルクトース溶液を用いることで、試料の大きさや微細構造の変化なく、深部まで観察できる同研究所のSeeDB、電気泳動法により資質を除去して透明化を行う、スタンフォード大学のCLARITYなどの方法が報告されている。これらの手法の改良版として、理化学研究所は、アミノアルコールや尿素、TritonX-100(界面活性剤)を用いるCUBIC法(Clear, Unobstructed Brain Imagin Cocktails and Computational analysis)を用いることで透明化を向上させ、1細胞単位の解像度での観察も可能になった。CUBIC法では、アミノアルコールが血液中のヘモグロビンの構成要素であるヘムを溶かすことで、組織の脱色が促進される。これにより、今まで高い透明性が必要であった深部観察が可能となり、脳全体の細胞の機能や神経活動を高速で解析することに近づくことができるようになる。将来的には、全身の細胞の働きを単一細胞のときと同様の解像度で網羅的に解析する全細胞解析の実現につながるものと思われる。