たとえばナノ多孔質ニッケルなど、スポンジのようにナノスケール(10億分の1mスケール)の多くの細孔を有するナノ多孔質金属の表面にグラフェン(単層の炭素がベンゼン環構造を組み、平面状=二次元的に並んだもの)を成長させ、あとから金属を溶かすことで、100~300nm(ナノメートル)の微小な細孔を有するナノ多孔質グラフェンが作製される。この材料を用いると、二次元原子層であるグラフェンを普通に三次元的に積層した構造には空隙(くうげき)がなく、液体やガスの出し入れが難しかった点が解決され、グラフェンの化学分野での応用を広げることができるようになる。
グラフェンは導電性に優れており、しかも炭素でできているので化学的な安定性も高い。このナノ多孔質グラフェンが有する電気伝導性、多孔質性を利用した応用の一つにリチウム空気電池(Lithium-air battery)の正極材料への応用がある。リチウム空気電池は金属リチウムを負極材料に、空気中の酸素を正極材料として利用するリチウム電池で、原料の酸素を空気から取り込めるため、通常のリチウム電池をしのぐ大きな容量など、優れた特性が期待される。この空気極(air electrode)にはリチウムイオン、酸素、電解質の輸送や混合を円滑的に達成するために、多孔質の材料が必要になり、ナノ多孔質グラフェンへの期待が高まっている。さらに、高効率な水蒸気発生への応用も報告されている。ナノ細孔が毛細管現象で吸い上げた水を、太陽熱を吸収することで加熱したグラフェンが蒸発させることで、たとえば海水の淡水化などが効率的に行える可能性がある。表面積の大きさを生かし、水を高効率に電気分解して水素を発生させる水素発生電極としての応用も検討されている。