光により性質が変化する材料はたくさんあるが、この中で光により磁性の状態が変化する材料を光スイッチ磁石と呼んでいる。簡単に言えば、通常は磁石にならないが、光をあてると磁石に変化する物質である。光磁気ディスクなどでは、光を使用した磁気メモリーの制御が行われているが、これらは、レーザー光の照射と光吸収による熱の発生を利用して結晶状態を変化させるものであり、光により直接的に磁性をスイッチする光スイッチ磁石とは異なる。光スイッチ磁石の一つの形態は、レーザー光によって物質内に電荷移動を引き起こし、物質がもつスピン(物質内の電子やイオンの磁気的性質を決めるもの)の状態を変化させることで、スピンが向く方向をそろえて磁気を発生させるものである。別の形態は、レーザー光によって物質のイオンのスピン状態を直接変化させる方法である。たとえば、鉄イオンと有機分子を組み合わせたある種の材料では、鉄イオンのスピン状態に対応して磁化率が変化するが、磁化率の低い状態で鉄の遷移に対応するレーザー光を照射すると、鉄イオンのスピン状態が変化し、磁化率の高い状態にスイッチする。これは光スイッチ磁石の動作になる。照射するレーザー光の波長を変えることで、異なる性質をもった磁性状態間のスイッチも実現されている。これらの光スイッチ磁石の動作は、まだ低温での実験に限られるが、室温で観測されれば、将来の光記憶デバイスへ向けた有望な候補になるほか、光コンピューター、光センサーなどへの応用が期待される。また、超高速レーザー技術と組み合わせることで、ピコ秒(ピコ=pは10-12=1兆分の1)オーダーの超高速磁性スイッチングの可能性も出てくる。