近年、実験動物を使用せずに創薬や機能解析を可能とする技術に注目が集まっている。オルガノイドはその一つであり、脳組織など複雑な器官を培養皿などの上に作り出すことで、創薬や機能の解析を可能にしている。一方、単一の組織や臓器構造をモデル化し、チップ上に形成することで機能を発現させ、その解析を目指すオーガン・オン・チップも、実験動物や人に頼らない臨床試験を実施することができる可能性のある技術として発展してきた。アメリカのハーバード大学のドナルド・E・イングバー教授による「肺チップ(Lung on a Chip)」、ノースウェスタン大学のテレサ・K・ウッドラス教授らによる女性の生殖器系の機能を模したオンチップ臓器などが報告されている。
有害物質への暴露などの解析が可能になってきてはいるものの、半面、ヒトの生理学的反応を生体外で十分再現できておらず、生体を用いない安全な代役とはなっていない。これらの問題点を解決するために、京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点の亀井謙一郎准教授らは、複数の臓器の培養組織をつなげることで、より生体に近い解析が可能となるボディ・オン・チップを開発した。微細加工技術を用いることで、単一のマイクロ流体デバイス上に正常な心筋細胞とがん細胞の2種類を載せた「心筋・がん統合チップ」を構成することに成功した。これにより、抗がん剤の心臓における副作用解析がより生体に近い形で実現できる生体外ヒトモデルを実現することができた。