英名の頭文字をとったシステムで、緊急時環境線量情報予測システムのことである。2011年3月11日の東日本大震災に伴う原発事故で、世間に知られることになった。何らかの事故が発生した時に、周囲の放射性物質の分布や被ばく量を推定するシステムで、3つのモデルから成っている。基本的には、領域モデルを軸に、放出源情報を与えて、周囲への移流拡散を計算し、最終的には、大気中の放射線量や、地表面への蓄積量を計算する。最初は、気象庁から得られる客観解析値のグリッド(500ヘクトパスカル以下の値)を境界条件として用い、ペンシルベニア州立大学とアメリカ国立大気科学研究所により開発されたMM5と呼ばれる2キロメートルの水平格子間隔のメソスケールモデルを走らせる。この予測結果を、細かい地形も考慮した500メートルの水平格子に、質量保存を考慮した内挿を行う。そして、これらのデータに基づき、放出源情報と地形データなどを用いて、250メートルの格子間隔で大気中の放射性物質の濃度や線量を計算する。放射性物質の地表面への蓄積については、乾性沈着と降水などによる湿性沈着の両方が考慮してある。放射性物質の大気中濃度および地表蓄積量から、空気吸収線量率を計算し、これに基づき、外部被ばく実効線量や内部被ばく線量を計算する。しかしながら、東日本大震災の時には、原子炉の爆発に伴い、発生源に関する観測データが取得できなかったため、放射性物質の分布の絶対値を計算するには困難があった。そこで公表には多くの時間を要した。しかし、相対的な強度と物質分布に関する信頼度はあると考えられ、実用に足りるものとも考えられる。実際にどう利用するかについて事前に考えていなかったこと、および、周囲の自治体などによる避難演習などが行われていなかったことが原因であるが、そもそも、このような事故が起きることは想定外であり、起こりうる事故に関しての我々の構想力が試されたことになった。