2006年に、ノーベル化学賞を受賞したポール・クルッツェンが、「温室効果気体の削減策には、政治的に失敗している。次善の策を考えなければならない」と主張したことから、欧米を中心に検討が進められている、人為的な気候変化をもたらす技術のこと。さまざまな提案があるが、コスト的な側面や現実性の観点から、成層圏にエアロゾルを散布して太陽入射量を制限する方法と、対流圏から直接、二酸化炭素を除去する方法が現実的と思われている。成層圏のエアロゾルによる地表気温の低下は、火山爆発などにより確かめられている。この中では、資金的な安さと効果の面で成層圏エアロゾル注入が関心を呼んでいる。しかしながら、このような人為的な気候変化に関しては、強固な反対が存在する。一つは、副作用である。現在の研究でも、アジアモンスーンの降水に影響が出る可能性が指摘されている。全球平均の地表気温が下がるだけで、地域的な気候の変動は確実に存在するので、必ずしも、社会に都合のよい気候になる保証はない。もう一つは、モラルハザードである。温暖化を防げるからいくら二酸化炭素を放出してもよい、という気持ちになることである。ジオエンジニアリングは、決して温室効果気体削減策の代替策ではないことは、多くの報告書に書かれているが、実際になれば、どのように社会が対応するかわからないという懸念である。最後に、このような世界に影響を及ぼす可能性がある研究をどのように管理し推進するか、という問題が世界的に議論されている。実施する場合にどのような国際的な体制が必要か、という以前に、研究に関しても、国際的な管理が必要というわけである。このような欧米の動きに対し、日本、および、アジア諸国の動きは、ほとんどないと言ってよい。