社会技術という言葉には歴史的に多様な用法があるが、近年の科学技術政策分野では、科学技術が内在的な発展の論理に従うことによって見失われている、社会のための科学技術研究を担う分野を指すことが多い。社会技術研究の具体例としては、安全・安心に関する研究の推進、科学技術による地域再生などがある。類似の概念として「社会工学」があるが、こちらは工学的アプローチを主としている。第三期科学技術基本計画(→「科学技術基本計画」)の「成果を還元する科学技術」の議論や、第四期基本計画の課題設定・解決の重視にも、社会技術の考え方の影響が見られる。この分野の登場の背景には、1995年に国内で起こった、科学技術への不信を醸成する一連の事件があった。1月の阪神・淡路大震災では、専門の工学研究者が倒壊しないとしてきた高速道路が倒壊した。翌月の地下鉄サリン事件では若い科学者が関与し、12月のもんじゅのナトリウム漏れ事故では当時の動燃が事故の映像の重要部分を隠蔽した。もう一つの背景としては、世界的な科学者の団体 ICSU(International Council of Scientific Union 国際科学会議 国際的諸学会や各国のアカデミーなどをつなぐ組織として1931年に創設)とユネスコ(国連教育科学文化機関)が1999年にブダペストで共同開催した「世界科学会議」の「科学と科学知識の利用に関する世界宣言」(いわゆるブダペスト宣言)がある。そこでは、「社会の中の科学、社会のための科学」がうたわれた。国内での社会技術の推進機構として、文部科学省傘下の独立行政法人・科学技術振興機構のもとに、社会技術研究開発センター(RISTEX Research Initiative for Science and Technology for Society)が設けられた。総合科学技術会議(当時)が中心となって2008年から5年間推進された官民連携の「社会還元加速プロジェクト」も、異分野融合によって社会の課題を解決することを目指しており、社会技術と類似の方向性を持つと考えられる。