アメリカを代表する社会学者のマートンは、科学が他の学問に比して確実な知識を生み出す理由を、科学者が持つ固有の倫理観(エートス)に求めた。そして、その要素として、研究知識を共有するという公有制(communalism)、研究の成果が人種や国籍によらないとする普遍主義(universalism)、科学者が自らの利益を追求しないという利害の超越(disinterestedness)、そして研究成果を慎重に吟味するという系統的な懐疑主義(organized skepticism)という四つのノルムを挙げた。おのおのの英語の頭文字をつなぎ合わせて、これらはCUDOS(キュードス)とも称される。1940年代に提唱されたこの考えは、ファシズムなどからの攻撃に対して科学を守るための主張であった。第二次世界大戦後、科学社会学の研究が進むと、科学者がしばしばノルムを破ることが明らかになった。マートンの約50年後の1994年、物理学者のザイマンは、20世紀末の非アカデミックな科学研究の拡大に注目し、現代の科学は、所有的(proprietary)、局所的(local)、権威主義的(authoritarian)、請負的(commissioned)、専門的(expert)な仕事になったとした。これは英語の頭文字からPLACE(プレイス)と略され、CUDOSに代わる新しい科学の原理であるという。これは科学の現状に対する諦念であるという見方もある。