科学を客体として分析対象とする代表的な研究領域。科学哲学や科学社会学は、一括して科学論(science studies)と呼ばれる場合もある。科学史研究の萌芽は、自然科学を思想の中核の一つとした18世紀啓蒙思潮に見られる。一方、科学哲学は、19世紀半ばごろ、科学が社会的に急成長するのにともなって登場し、既存の学問に対抗して、当時まだ新参だった科学の正統性や優越性を主張した。初期の科学史は、科学は連続的で累積的な進歩を重ねてきたという歴史観に基づいており、帰納主義の科学哲学がそれを基礎づけた。仮説演繹(えんえき)法の科学観が確立したのも、この前後である。これに論理主義が混交したのが、20世紀前半に一世を風靡(ふうび)した論理実証主義である。1930年代になると、科学の社会的なあり方に対する疑義が生じ、バナールやマートンによって科学社会学が創始された。だが、彼らの科学社会学は、科学研究の効率を増加させたり、科学者が従うノルム(規範)を分析することにとどまり、科学の内容に対する社会学的分析には至らなかった。これに対して、60年代末に登場したトーマス・クーンのパラダイム論は、科学知識の蓄積的進歩や帰納主義を否定し、科学は社会的制約のなかに存在する理論枠組みであるとした。先行する科学史、科学哲学は批判にさらされ、科学を社会のなかで作り上げられた信念体系として分析する科学知識の社会学(SSK sociology of scientific knowledge 社会構成または構築主義の一種)の強い影響を受けるようになった。これによって、科学を論理体系に還元したり、出来上がった知識体系と見るのではなく、科学者たちによって営まれる現在進行形の社会活動(動作中の科学、science in action)としてとらえるラトゥールによる議論が生み出された。その観察に人類学の手法を用いる科学人類学の興隆も見られる。