液体や固体は強く相互作用する原子・分子の集合体であり、磁性体も相互に結合するスピン磁気モーメントの集合体と見なされる。したがって、これらマクロな物質のさまざまな性質は、ミクロな要素(原子・分子、スピンなど)の動きを高速化・大容量化したコンピューターで追跡することを通じて明らかにできると期待される。その場合、計算機シミュレーションの方法として、分子動力学法およびモンテカルロ法(メトロポリス法〈Metropolis method〉とも呼ばれる)の二つの代表的方法がある。前者は決定論的な方法であり、後者は確率論的な方法である。簡単のため、以下ではミクロな要素を「粒子」と呼び、ミクロな力学は古典力学の法則に従うとすると、力学法則は既知であるから、ある瞬間における全粒子の完全なミクロ状態を指定すると、全エネルギーはその関数として表すことができる。個々の粒子が次の瞬間にどのように動くかも力学法則からわかるが、これをすべての粒子についてまともに追跡するのが分子動力学法である。一方、モンテカルロ法では、各要素の動きは確率法則に従うと仮定する。そのために、物質はマクロには熱平衡状態にあると仮定しなければならない。この仮定の下では、各粒子が次の瞬間に種々の状態に遷移する確率は、統計力学(熱平衡で成り立つさまざまな法則を原子分子がしたがうミクロな力学法則から導き出す力学)によって一般的に知られているので、それにしたがって新状態を確率的に選択する。そのため、モンテカルロ法は物質の非平衡状態を扱うことができない。一方、分子動力学法はマクロ状態が時間変化する過程を扱うことができる。しかし、モンテカルロ法にもさまざまな利点がある。量子力学にしたがう系に決定論的方法を拡張した場合、大きな系を扱うのは困難であるが、量子系に拡張されたいわゆる量子モンテカルロ法(quantum Monte Carlo simulation)では、相当大きな系を扱うことができる。モンテカルロ法はまた物性物理学を離れて、さまざまな最適化問題にも適用されている。これは多数の要素から成る系の最適な状態を、あるポテンシャルの最小状態に対応させることができるからである。実際、これを「物質を十分冷やすとエネルギーが最小の状態に落ち込む」という事実に対比させると、両者は数式上同じ形に表される。これにより、正しい最低エネルギー状態に系を導くことができるモンテカルロ法が、最適化問題にも適用できるのである。