分岐現象の一種で、数学者E.ホップによってその数学的な基礎が与えられた。ホップ分岐は散逸力学系(マクロな現象を記述するための、エネルギーの散逸効果を含む力学モデル)の安定な平衡状態の不安定化にともなって振動状態が発生する現象である。この振動は初期条件によらず振幅が一定したリミットサイクル振動(limit-cycle oscillation)とよばれる非線形振動であり、その点で調和振動のような線形振動とは異なっている。物理的には、非平衡開放系(熱平衡状態から離れた状態に保たれている開放系)において環境条件が変化するとともに時間的に一定した状態が急に不安定化して振動しはじめることがしばしば起こるが、これはホップ分岐として数学的に記述される。たとえば、レイノルズ数(Reynolds number 流体の粘性力に対する慣性力の大きさを表す無次元量)を上げたとき、流体の「定常な流れ」が「振動する流れ(脈流)」に変化するのはホップ分岐である。レイノルズ数のように、力学系の振る舞いの定性的な変化を引き起こす制御パラメーターは分岐パラメーター(bifurcation parameter)とよばれる。
ホップ分岐には超臨界分岐(supercritical bifurcation)と亜臨界分岐(subcritical bifurcation)の二つのタイプがある。どちらにおいても、分岐パラメーターの変化とともに平衡状態が不安定化すると同時に振動が始まるが、超臨界分岐では振動は限りなく小さい振幅から始まるのに対して、亜臨界分岐ではいきなり有限の振幅から始まる。その意味で、これらは物質の相転移現象における二次相転移と一次相転移にそれぞれ類似している。