長い間、度量衡(weights and measures)での時間の基準は天文現象であったが、原子時計(atomic clock)の精度が高まり、1967年に世界標準時間の基準は原子が発するマイクロ波に置き換えられた。その際、セシウム133(133Cs)原子の基底状態の超微細準位の振動を9,192,631,770回数える時間が1秒と定義された。地球の自転を基準とする天文時間では、過去45年の平均で、5年に1秒の誤差が生ずる一方、セシウム原子時計(cesium atomic clock ; cesium clock)では数十万年に1秒の誤差と推定されている。
原子時計とは原子の安定した「振り子」を「計数」することであり、「計数」技術の難しさから当初はマイクロ波の振動数から始まった。しかし、測定の分解能は振動数がより高い光の方がよく、80年代から光原子時計の開発が始まった。ここで「計数」の技術を可能にしたのが光コムである。また、ドップラー効果による周波数シフトを避けるためにレーザーを当てて原子を止めるレーザー冷却(laser cooling)の技術も開発された。これで精度が数千倍あがったが、多数回の測定で長い時間がかかるのが欠点だった。2001年に東京大学の香取秀俊教授(当時は准教授)が考案した光格子時計(optical lattice clock)では、1000個の原子を一度に観測することで、従来は10日かかった作業が2時間で済む効率化が進んだ。レーザーで作った定在波の電場ポテンシャルのくぼみにストロンチウム87(87Sr)原子を1個ずつ並べて静止させ、一緒に測定するもので、将来は100万個までも増やせるという。なお、ストロンチウム87の光の周波数は、429,228,004,229,873.2Hzである。
香取教授らのグループは、一般相対論効果で重力ポテンシャルの差による時間の伸縮をこの光格子時計を用いて測定した。地上の重力では高さ1cmの差で1.1×10-18秒の時間の差ができる。埼玉県和光市の理化学研究所と東京都文京区の東京大学に約15km離れて置かれた光格子時計の時間差を光ファイバーで結んで測定し、1516cmの標高差があることを測定した。この達成はさまざまな新しい重力測地の技術を生み出すと期待される。