テラ(T : tera)はSI単位系の接頭語で1012(1兆)を表す。つまり、周波数が1THz(テラヘルツ)の電磁波は、1秒間に1兆回振動する。周波数からいうと、テラヘルツ波は赤外線と、電子レンジなどに用いられるマイクロ波の中間、つまり光と電波の中間にあるが、他の周波数範囲の電磁波と比べて、これまであまり利用されていなかった。しかし近年、フェムト秒(1fs=10-15秒=1000兆分の1秒)の単位、つまり1秒間に1000兆回振動するフェムト秒レーザーの開発によって、テラヘルツ波が比較的容易に発生できるようになり、半導体デバイス技術の発展と相まって、テラヘルツ波への関心が高まっている。テラヘルツ波は不透明な物質を透過する一方、X線に比べると圧倒的に低エネルギーなので、非破壊的に物質の内部を調べられる。金属の検知に利用すれば、従来の金属検知器では金属の有無を判定できるだけなのに対して、その形状も分かるので、検査が大幅に簡便化される。赤外吸収スペクトルの指紋領域(finger positioning 化合物に固有の波長領域)に相当するテラヘルツ波領域は、試料内部の分子間ないし分子内の振動を示し、場合によっては光学異性体の区別も可能である。だが、問題はその検出器である。低エネルギーのため、室温下で発生するさまざまなノイズの影響がデータに及んでしまうため、現状では測定装置を液体ヘリウムで冷却する必要がある。常温での半導体レーザーが開発されれば、テラヘルツ波は精密な検査を行う必要のあるあらゆる分野で利用されるようになろう。