分子を構成する原子の種類と数は等しいが、構造が異なる物質、すなわち、異性体(isomer)の中で、4種の異なる原子もしくは原子団が結合した不斉炭素原子(asymmetric carbon atom)をもつ化合物は、「握手ができない」右手と左手の関係にあり、生理活性が互いに異なる一対の光学異性体をつくる。この「右手と左手の関係」をキラリティー(chirality)あるいはキラル(chiral)といい、キラルでない場合はアキラル(achiral)という。天然に存在するアミノ酸はグリシン以外すべて不斉炭素原子をもつが、そのほとんどが形構造をもつ。化学調味料のグルタミン酸モノナトリウムもうまみを示すのは形だけであり、形はむしろ風味を損ねる。アミノ酸を人工的に合成すると、形と形の1:1混合物、ラセミ体(racemic modification)となる。これを効率よく分離する光学分割(optical resolution)、さらに必要な光学異性体を選択的に合成する不斉合成(asymmetric synthesis)は重要な技術である(→「キラル工学」)。不斉の起源に関して昔からさまざまな説がある。宇宙で中性子星が出す円偏光が原因であるという説が有力であるが、確定するには至っていない。
なお、国際純正・応用化学連合 (IUPAC ; International Union of Pure and Applied Chemistry)は、光学異性体という呼び名から、一対のキラルな化合物を示すエナンチオ異性体(enantio isomer)あるいはエナンチオマー(enantiomer)という呼び名に変えるよう勧告している。同様に、光学分割は単に分割とするように提案している。