炭素と炭素をつなげる反応は有機化学反応の中でももっとも重要な反応の一つであり、古くから研究されてきた。周期表のほぼ中央に位置する炭素は反応性が低く、何らかの方法で一方にプラスの電荷を、他方にマイナスの電荷を与え、両者の間の引力を利用する方法がとられた。それでも2個の炭素原子を直接結合させることは困難だったが、適当な金属を仲立ちとし、あるいは触媒として反応系に加えることによって、炭素と炭素の結合の生成が実現した。1912年のノーベル化学賞の対象になったグリニヤール反応(Grignard reaction)も、この種の初期の試みの成功例である。この型の反応で、結合する二つの分子が同じであればホモカップリング(homo coupling)、異なればクロスカップリングと呼ばれる。2010年のノーベル化学賞を受賞した米パデュー大学特別教授の根岸英一は有機化合物の一方に亜鉛を導入し、パラジウム触媒を用いて根岸カップリングを、同じく北海道大学名誉教授の鈴木章は有機化合物の一方にホウ素を導入し、同じくパラジウム触媒を用いることによって多くの有用な化合物の合成への道を開く鈴木カップリングを確立した。この他にも多くの日本人化学者がさまざまなクロスカップリング法を提案し、成功を収めている。