ベンゼンの六角形の炭素環が二次元平面に隙間なく結合したような網目状構造をした一層の炭素のシート。炭素の同素体としては、無定形炭素、ダイヤモンド、黒鉛(グラファイト)が以前から知られていたが、昨今、フラーレンやカーボンナノチューブが加わり、最近になってグラフェンが新たに加わった。以前から理想的な2次元物質として注目されていたグラフェンは、2004年にイギリスのマンチェスター大学のアンドレ・ガイム(Andre Geim)博士とコンスタンチン・ノボセロフ(Konstantin Novoselov)博士によって黒鉛から単離された。彼らは同時にその驚異的な電気伝導の測定に成功した。それ以来この分野の研究が急激に発展し、両氏は10年のノーベル物理学賞を受賞した。
グラフェンは黒鉛の一層の炭素のシートからできていて、六角形のベンゼンの炭素環が二次元平面に隙間なく結合したような網目状構造をしている。炭素と炭素の間の結合は、結合にかかわる炭素の四つの軌道(2s,2px,2py,2pz)のうち、はじめの三つの軌道で作られた正三角形型のsp2混成軌道間でσ結合している。それに加えて平面に垂直なpz軌道が二次元π結合網を形成していて、その中では電子が自由に移動できる。
今日、グラフェンを化学的に修飾して新たな機能を開発する試みが始まっている。その一例がグラフェンを水素化して炭素環をシクロヘキサン環型にしたものであり、グラファン(Graphane)と呼ばれている。炭素と炭素の間はダイヤモンドと同じ四つの軌道で作られた正四面体型のsp3混成軌道間のσ結合で結合しており、その部分は絶縁体となる。グラフェンは物性研究の面だけでなく、グラフェントランジスタなど新しい物性材料としても期待が高まっている。