マイクロ波とは、周波数が300MHz(メガヘルツ:100万Hz)~300GHz(ギガヘルツ:10億Hz)の電磁波のこと。電子レンジで使われるマイクロ波は、電磁波の中でももっとも身近なものといえよう。電子レンジによる効率のよい加熱効果を化学に応用する試みはすでに1980年代になされ、反応速度が著しく促進されることが見いだされた。例えば、ある縮合反応(condensation reaction 反応性の高い官能基を持つ二つの化合物が、水、アルコール、アンモニアなどの簡単な分子を失って結合し、新しい化合物をつくる反応)は18時間加熱して収率80%であったのに対して、マイクロ波照射では40分で93%の収率が得られた。この種の効果の原因は、マイクロ波照射によって高温高圧条件が瞬時に得られるためともいわれる。これをマイクロ波効果、ないしマイクロ波非熱的効果(microwave nonthermal effects)と呼ぶ。しかし、マイクロ波の照射条件次第では、反応容器内に温度のムラが生じ、場所によっては通常の加熱条件の温度よりも高くなることから、非熱的効果の存在を疑問視する研究も報告されている。
マイクロ波は、鏡像異性体(互いに鏡像の関係にある立体異性体。→「光学異性体」)の区別にも利用されている。鏡像関係にある「R体」と「S体」がもつ電気双極子モーメントのx,y,z方向の各成分は、大きさは等しいがプラス・マイナスの符号は鏡像関係にある。そのため、特殊な条件でマイクロ波を照射すると、得られる信号の位相がずれるため、両者を識別できる。方法には改善の余地があるが、旋光度の測定などの従来法にとって代わる可能性がある。