有機化合物(organic compound)を扱う化学の分野を有機化学という。現在では構成元素として炭素を含む化合物を有機化合物、それ以外の化合物を無機化合物と定義されている。ただし、炭素を含んでいても簡単な化合物、たとえば二酸化炭素(CO2)や炭酸塩(CaCO3)などは無機化合物(inorganic compound)に分類される。近代化学の誕生当時、有機化合物は生命だけがつくり出せるものと考えられていて、これを生気説(vitalism)という。しかし1828年、F.ウェーラーが無機化合物から有機物である尿素の合成に成功し、有機化学が急速に発展した。2014年現在、9100万以上の化合物が報告されているが、その80%以上が有機化合物であるといわれている。有機化合物の数が多いのは、炭素原子はその「4価」の原子価(valence ほかの原子と結合できる「手」の数)を用いて、別種類の原子とも、別の炭素原子とも自由に結合できるためである。その有機化合物を研究する有機化学は、有機構造化学(organic structural chemistry)、有機物理化学(physical organic chemistry)、有機合成化学(organic synthetic chemistry)に大別できる。特に20世紀後半から、量子化学による理論面、NMR(核磁気共鳴)や質量分析など種々の分析機器の発達、クロマトグラフィーなど物質の分離精製法の進歩に助けられて、有機化学は大発展した。