トランスナショナル現象は、主要な経済列強が蔵相会議や首脳会議を通じて、主として各国の経済運営に介入し、共同運営を行う慣例にみられる。それを補完する制度(国際通貨基金など)も多々作られた。しかしこれは本来のトランスナショナル現象ではなく、それの準備である。
現在もっとも注目すべきトランスナショナル現象は、EU(ヨーロッパ連合)である。これにいたる過程で西洋諸国は共同市場を作り、ついには政治統合をめざすまでに成長した。政治統合にいたるまでにはいくつかの段階を乗り越えなくてはならないが、すでにヨーロッパ委員会という連邦内閣と、ヨーロッパ議会と裁判所もそなえている。現在のEUは真の政治統合ではなく、各国の国家主権を温存した国家連合にとどまる。
しかし諸般の状況は国家連合を超えて、連邦国家へと進展しようとしている。この段階ですでに共同管理はかなり強力になっていて、かつてのトップ(首脳、蔵相)会談はすでに時代遅れになっている。EUが国際関係におよぼす影響は甚大であり、将来には地球上の各地に類似の連合現象を生み出すに違いない。かつてカント(Immanuel Kant 1724~1804)が理想として展望した唯一の世界連邦と世界政府が地平線に姿をみせるかもしれない。