「所有」は経済的・法的現象であるだけでなく、それは昔と同様に今も思想の重要な課題である。初期近代では、個人の自立を獲得することが最優先の課題であったから、イギリスのホッブズ(Thomas Hobbes 1588~1679)やロック(John Locke 1632~1704)においても、日本の海保青陵(かいほ せいりょう 1755~1817)や山片蟠桃(やまがた ばんとう 1748~1821)においても、生命と財産の保全を求め、それに基づく市場経済の確立をめざした。近代的所有は私的所有であり、それは個人の安定的な生活を確保することが緊急課題であったときの社会思想的課題になった。
しかし所有問題は、近代的所有に限ることのできない広がりをもっている。歴史的には種々の所有類型があり、人類の社会的経験の歴史的展望を得るための重要な手がかりになる。アルカイックな所有形態は、贈与の観念に基づく「人格的」所有であり、それは共同所有と一体であった。国家形態が複雑になると、共同所有から個人所有の相対的自立化が始まり、その限りで商品経済も発展し始める。共同所有の拘束は依然として強く、この拘束がゆるみ始めるのは初期近代になってからである。そして共同所有の拘束がほぼ完全に撤廃されるとき、その時期こそ私的所有体制に基づく資本主義近代が確立する。