「資本主義」は、もともとマルクス(Karl Heinrich Marx 1818~83)が作った毒のある批判的概念であり、マルクス主義以外の人は決して口にしなかった。ソ連崩壊以後、誰もが資本主義を使用し始め、ジャーナリズム用語になると、貨幣経済と同義語になり、内容空疎な用語に化けた。それと同時に、現実の歴史的理解も、雲散霧消してしまった。
資本主義は、歴史学と社会思想の両面で、現代思想の用語として復権させたほうがいい。歴史理論上の用語として、資本主義は近代というエポックを的確に特徴づける。近代は資本主義近代以外にはない。社会思想の用語として、資本主義概念は、経済における剰余価値の搾取体制と資本の拡大再生産を教えるだけでなく(資本主義「経済」)、近代人の日常生活から政治的・法的・文化的領域を全面的に包む資本主義「社会」を教える。現代を高度産業社会、消費社会、情報社会などと呼ぶことがあるが、それらは資本主義の別名にすぎない。
ソ連の「社会主義」も、「国家資本」中心の資本主義社会であったこと、西欧、アメリカ、日本の経済はリベラルな私的資本中心の経済と社会であったこと、などからみれば、「社会主義と資本主義」があったのではなく、資本主義の二つの類型があったにすぎない。ついにこの資本主義近代が絶対限界に直面しつつある。これが思想の重要な問題になるだろう。