「暴力」は長い間、思想の言葉ではなかった。これまで暴力は付随的現象や、さまつで野蛮な現象とみなされてきた。それは合理的精神が浸透すればおのずと消滅すると思われていた。現実はむしろ反対で、消滅どころか地球上のあらゆる地域で種々の暴力が激発している。個人への攻撃、少数民族の弾圧と差別、抑圧されたものの対抗暴力、加えて国家と国家の戦争が多くの地域で頻発している。暴力は付随的どころか、人間存在に内在するものであり、条件次第でどこまでも拡大する。フランス革命のジャコバン派の「大恐怖」(テルールTerreur 仏 1793~94年)から由来する政治的テロリズムは、元来は国家テロルである。国家に抑圧された民衆が自由を失うときに対抗テロリズムが生まれる。