難民の歴史は古い。記録にあるかぎりでは、古代のギリシャとローマは難民にあふれていた。難民はどの都市国家にも帰属しないから、公民権がなく、不法に居住するしかない。多くの難民は陸の盗賊か海の盗賊になるしかない。西洋の社会にはつねに難民出身の盗賊集団が海陸に瀰漫(びまん)していた。どの国家も武装する盗賊集団をいかに制圧するかは領域支配を確立するために決定的に重要な課題であった。いまは昔のような軍事力をもつ盗賊集団に類似する集団は、ゲリラ戦士をのぞいて他にない。現代のゲリラ戦士もまた昔と同様に多くは難民出身である。
難民発生の原因は昔もいまも国家間戦争である。民族紛争であれ国家間戦争であれ、すべての戦争は民衆を犠牲者にする。難民化した民衆は不法居住者として諸国の境界を流浪するしかない。この場合に、経済難民か政治難民かの区別を立てることは不可能である。難民は古来つねに経済難民であり政治難民であった。これと出稼ぎ労働者と区別しなくてはならない。出稼ぎ労働者は合法的居住者である(フランスのアルジェリア人、ドイツのトルコ人など)。