魔術からの解放(呪術からの解放、脱呪術化 Entzauberung 独)という用語はマックス・ウェーバー(Max Weber 1864~1920)のものである。人類史の長期展望から見れば、人類は漸次的に合理化過程を深めてきたが、合理化過程の長期趨勢を「魔術からの解放」と彼は定義したのである。しかるに現在のナショナリズムの疑似宗教的活性化や、イスラム圏に見られる政治と宗教の合体運動などを見ると、合理化過程の深化ではなく、かつての魔術心性への回帰ではないか思われるほどであるから、それを指す言葉として、「再魔術化」なる用語が登場したのであろう。
しかし再魔術化は合理化への反動ではあろうが、実際にはどの時代にも合理化と反合理化は共存していた。魔術化とそれからの解放の両傾向は相反的でありつつ、社会と文化の不可欠の構成要素でもあった。再魔術化に見える現象が、実際には一種のユートピアのように新しい合理化(理性運動)でもありうる。魔術化と反魔術化を機械的に対立させるのではなく、両者の相互批判的関係の文脈から相互反転を解読する必要がある。どの時代でも解放運動は疑似宗教的形式をまとうという逆説は、実際には逆説ではない(中世のキリスト教用語を使う解放的共同体運動、19世紀のサン・シモン主義と新キリスト教などが典型である)。