行為を任意に選択しうることは自明に思われる。しかし決定論は、意志の自由とも呼ばれるそうした自由を否定する。決定論にはさまざまな種類があるが、機械論や唯物論を背景に成立したのが、因果的決定論、つまり世界の事象と同様に人間の選択も先行する諸原因により決定されているとする立場である。決定論にはしかし、行為の責任を問うことが困難になるのではないかという問題が常に突きつけられてきた。
他方、選択の絶対的非決定性(無差別の自由)を主張する立場が非決定論(indeterminism)である。この立場にもさまざまな種類があるが、心身二元論に基づくデカルトの思考がその一つとも言える。しかし非決定論も、二元論の難点だけでなく、絶対的非決定性はむしろ選択や帰責を不可能にするといった困難をはらんでいる。
これらの両極と異なり、決定論と自由(帰責)を両立可能とする立場は両立論(compatibilism)と呼ばれる。その一つである柔らかい決定論(soft determinism)は、決定論を前提としつつ、妨害や強制の不在を自由(行動の自由)と考える(ホッブズ、ヒュームなど)。他の両立論としては、人間を二面的存在と捉え、行為に関する倫理的判断を主体的になしうる点に自由=自律(Autonomie 独)を見いだすカントの思考があろう。この問題をめぐっては現在も、因果性や行為、責任など諸概念の問い直しを背景として議論が続いている。