「気づかい」とも訳される、ケア倫理の基本概念。ケア倫理の始まりは心理学者ギリガン(Carol Gilligan 1936~)の著書「もう一つの声」(1982年)にある。彼女は同書で、コールバーグ(Lawrence Kohlberg 1927~87)の男性をモデルにした道徳性の発達理論を批判し、女性の心理を組み入れた新たな道徳性の発達理論が必要であることを示した。この著作は、心理学のみならず倫理学の領域にも大きな影響を与えた。その後、ノディングス(Nel Noddings 1929~) が、ギリガンの提起した問題を倫理学理論としてより洗練させた。ケア倫理は、「正義」や「権利」といった普遍的な概念に依拠した従来の倫理学理論(「正義の倫理」)が、個々の文脈や人間関係を重視する視点を欠いていると批判したところに、そのインパクトがある。その場その場で各人が相手に対して「気づかい」を発揮することをケアの倫理は重視する。現在では、ケアの倫理は、フェミニズムと倫理学をつなぐ理論として大きな影響力を持つにいたっている。